LIVE Vol.2 朗読テキスト

今年9月に行った空の灯音楽隊LIVE Vol.2では、SPAC俳優の布施安寿香さんとコラボレーションし、物語を下敷きにしながらの音楽コンサートを作りました。

その時のテキストを公開させていただこうと思います。

ライブ映像と合わせてご覧下さいませ。

LIVE Vol.2 前半
https://www.youtube.com/watch?v=jK8X5XihI8c

LIVE Vol.2 後半
https://www.youtube.com/watch?v=BJYTpc1es4c



空の灯音楽隊 LIVE Vol.2
歌詞・朗読テキスト 丸山研二郎
中央に表示は歌詞



大爆発の歌

揺れる炎の風
すえた影をふりまく
もののけが湾を埋める
海の上のまっすぐな道

陽炎が 街を揺らす
太陽が爆発する
もののけは 傘をさし
雲の影に 足をすくわれる

煙る爆発の後
すえた水色の雨
天の揺籃 静かに満ち
始まりは遠く 近しいところ


晴れやかに 伸びやかに遊び
あっという間に 日は行ってしまう

夕まづめに まだ何か 優しい時間が残っているように思い
一日を振り返ってみるが
夕飯を食べ お風呂に入れば すぐに眠る時間がやってくる

子どもの頃 寝る前には 母親に物語をしてもらうのが好きだった 
どこにでもありふれた昔話だ 

むかし むかしあるところに… 

眠りに落ちる一瞬の間に 幼い子はたくさんの夢を見る

夜の闇の中に 草木や 子ども達の笑い声や 甘い飲み物や 
鬼や異形の物怪や 涙や 火の粉が…
ぐちゃぐちゃに溶けて 夜ごとにたまってゆく

それは 底の見えない ひろいひろい水面  

ここちよい光を見つけ 春の風に舞い
苦境に祈り また 小さな恋の炎に身を焼くようになるころには
その水たまり 広大な海の 繊細な成り立ちを
思い起こさずにはいられなくなる

そして ぐるぐるとしためまいの中で
一杯一杯 その水をすくっては眺め
すくっては眺め 思い出を探そうとするが
小さな器からは 透明なあたたかい水が こぼれ落ちるだけ
一生を捧げても その海をかい出すことはできない

朝起きると 寝る前に着ていた寝間着とは 違う服に変わっている
尋ねると きっとそれは妖精の仕業だ と母は言った

そういえば…
よく晴れた風の強い日に 誰もいない部屋で
ピューピューと悲しげな音を立てるもの
それも妖精だった

そんな話も こぼれ落ちた水に 少しだけ写っていた 


もえたつもの

ふかい やみのそこで
もえたつもの もえたつもの
風と わずかな空

ゆらり 雲は流れ
はなつ光 はなつ光
こころ しずかに解く



春の風に乗り
野辺を吹きわたり
険し山を越え
輝く西の空へ 輝く西の空へ

雲は風になり
土は花の糧
愛し面影は
崩れ出す波の上を 舞い渡る鳥の羽根

春の悲しみは
融けてゆきの日を
胸に宿しつつ
ほころぶ花のように ほころぶ花のように


空の灯

朝まだき うるむ空の灯は
こどもの心に 玉砂利の砂
うれいを数えて うちよする
彩りかすかに 火影をはらう

青み青み かげろい青み
透き通る風に ガラスの火花
一つ目小鬼の あこがるる
きしみはかつての 争いの音

うすずみのとばり 赤金の
たそがれの果ては また愛の果て
標なき夜にも 星の降る
こがねし はるけし 炎の野原

空高く進め 夜の端を
あたたかきものよ 命の光
(千光年の冷たい空)
果てなきボイドの ただ中に
(果てなきボイドの ただ中に)
しずかにしずかに たれさせたまえ
(打ちならせ 妙なる鐘を)


二人生きてくラブソング

鉄板の空に 月が輪をかけ そっと落ちる エメラルドの星
きみは涙 海に溶かし わたしは心 空へと投げた

ひとり ひとり 夢の中
正しさを知るまで歩く
逃げ腰のきみ わたしと同じ
少し 少し さびしい 今
二人待ってる ラブソング

指と指かさねて はじまるラブソング そっと結び ほどける沫糸(あわいと)
きみは心 わたしに伏せ わたしは涙 こらえてたたずむ

それにしても 今夜はきれいね
きみの涙よ きみの涙よ
いつも心は わたしと同じ
少し 少し やさしい 今
届きそうかな ラブソング

どこまで行くだろう この海越えて どこにいるの ほんとのわたし
きみを愛しているだけじゃなく わたしを愛してくれるだけじゃなく

ひとりひとり 夢の中
正しさを知るまで歩く
逃げ腰のきみ わたしと同じ
すべて すべて 捨てたい 今
二人生きてく ラブソング


こんな景色は

Pa こんな景色は 前にも見たな
Ti こんな景色は 前にも見たね
Pa 行き場を失ったトビが 輪を描いて昇ってゆく
Ti 行き場を失ったトビが 一直線に落ちてゆく
アリエス 手放してくれ
作り上げた夢もすべて
空の高さ恐れながら
やさしい風にふわりと浮かぼう

Pa そんな言葉は 前にも聞いたな
Ti そんな言葉は 前にも聞いたね
Pa 手を伸ばせば 触れられそうな命の光だね
Ti 手を伸ばせば 触れられそうな命の光だね
ジェミニ 手放してくれ
 作り上げた夢もすべて
小さな火が消えるの恐れながら
さしい風にふわりと浮かぼう

Pa こんな景色は前にも見たな
Ti こんな景色は前にも見たね
Pa やさしい月の夜に 涙があふれた
Ti やさしい月の夜に 涙があふれたね
リブラ ともに手放そう
作り上げた夢のすべて
小さな体に命を満たして
やさしい風にふわりと浮かぼう

小さな体に命を満たして
やさしい風にふわりと浮かぼう



空の彼方には 大きな大きな水瓶が浮かんでいる
雨の前には 密かに天空で その水瓶の水があふれるのだと

そんなことを聞いた

僕はあまりに 透明に思いを馳せすぎて
地上にいながら 天空の水に溺れてしまう

雨は地面を空へと変える
空に落ちてしまうものにとって 
それは 無限に続く穴だ
   
みんなくるくるまわっている
上手に上手にまわって 水たまりの上を 飛び越してゆく 
それはそれは簡単に 
水たまりに映る空を 飛び越してゆく 

僕はあまりに 透明に想念を書き換えすぎて
ごりごりと 空回りをしている
一体どこにいるのか 自分にも見えなくなってしまったので
泣いているとわかっていても 行って抱きしめてやることができない

水たまりに映る空は 穏やかで 底のない海のようだ

ふと 何かの声に気を取られ 回るのを止めた 

あっ というそのすきに 僕は真っ逆さまに空へと落ちた

逆さまの街を抜け 山を一瞬横目に
浮雲を通り越し
薄い膜のような 雲の層を続けざまに抜けると
空は 青から藍へ 群青へ そして漆黒へと 急激にグラデーションする

体はほぼ動かない
落ち続けながら 抵抗とも逡巡ともつかない意識を
落下する方向へと向け続ける他にどうすることもできない
絞られるような 感覚の痛みが
体を 足の先から段々と 細く細く搾り取り
胸を 首を 頬を 彼方の虚空へと置き去りにし
まるで僕は「目玉」だけになって
漆黒の中を きり揉みのように
めちゃめちゃに進んでいるように思えた

きりきり舞いになった僕の「目玉」は
落ち続けるうちに はたして 進んでいるのか
ものすごい速度で上空へと浮き上がっているのか
はたまた 真っ暗な四角い箱に閉じこめられ 止まっているのか

わからなくなった

くるくると回りながら 水たまりを飛び越していた あの連中は…!
と ふと頭をよぎる
とたんに

巨大な幕を剥ぎ取るように目の前が明るくなり

僕は 果てしない空間を 無数に
逆さまに落下しつづける 空に落ちたものたちの群れを見た


レンガ祭

夜の先は 赤いレンガ祭(さい)
やすらぎのないものを ぐちゃぐちゃに集めて
夜空の穴に 火をくべる 星のかまどに

火の子をまく 赤いレンガ祭
静かな街かどで 飲み物に目を伏す
あどけない顔の夜の人 まきをくべよ!

それはきれいにするところ
祈りわずかに深く燃ゆ
ヘリオポーズの先までも
夜風は今とふいごする
それは…

夜は満ちる 赤いレンガ祭
夢路の山鳥は
やがて咲く 花の精
星のかまどに 朝露が
静かに落ち 夜は明ける



ひどく広大な海を 胸の中に閉じ込めていた
あたたかな しかし寄る辺のない海である 

僕は無目的に浮かび 泳ぎ回った 

チャプチャプと体にまとわりつく波の音を儚み
かがやく魚の群れを探し
暁から満天の星空まで…  

長い長い時間がたち ふと気がつくと
僕は自分の肩の上に 奇怪な者たちを見た

たくさんの小さな生き物が 無数に息づき
話し合い 蠢いている 

時にはその小さな生き物たちは
平たい「へら」のようなもので僕の肩をつつき
何かを掘りかえしているようだった

そのたびに僕は 力を奪われ 疲れた

僕の体はもう 僕だけの物ではなかった
いつの間にか僕は 苔や 植物や
それを食べる生き物たちを 僕の体で養い
時にはその 生き物たちの争いを治め 
郷愁までをも請け負いながら 大きな海を航海する船になっていた 

この生き物たちは 何のために僕の背に息づいているのか
どこへと向かっているのか
この広大な海で 僕は陸地というものを見たことがない
小さな岩礁さえも

過去の 温かい海の輝きと
杳(よう)として知れない 生き物たちの未来の間で
一つの目的が 僕の頭のなかに浮かび上がる

この生き物たちのための陸地を探さなければならないのではないか

それは波に揉まれては消え 力強く奮い立ち
またあたたかい波にさらわれる 

船は 新しい旅路を思い起こすには すでに苔むして 古びていた


舵を探せ

波の間に間に 大きな船が
豆粒ほどの 小人たちを乗せ
寄る辺なく 浮かび沈む

青い海風 そぞろに受けて
船の行方を 小人たちは知らぬ
浮雲の ひとつひとつ

にわかに黒い 大きな雲が
あたたかい波を 突き刺すように
漠々と スコールする

降る雨の音 甲板を打つ
その高い音に 小人たちは気づく
切れ切れの 船の言葉

広い海原 その悲しみは
きっと誰もが 微笑みの下に
縫い付けているものだと


なみきのみちは

並木の道は 夜に眠って
まだ消え残る 街の灯は
最後の列車 行ったあと
寒い夜空に にじんでる

母さんあの音 なんだろう
そうね あれは 海鳴りの音

明日は風が 強くなるでしょう
あったかい 靴下 おろそうね


気がつくと砂浜に立っていた
ひとりだった
からっぽの水差しのように

夕日が照っている
長い砂丘が続いている

僕は 巨大な水たまりを飛び越えたのだろうか
あの小人たちは…

陸に向かって すこし歩く
すると
遠くの 誰もいない砂の上に
小さな子どもが ひとり ぽつんと立っているように見える

誰もいないの?
お母さんは?

ザクザクと 砂に足を取られながら
僕は少し大股に 歩いた

近づくと それは 小さな花だった

巻き返すような 海風に ぱたぱたと揺れ
はにかむように また こちらを向く

波音を背に
僕は 僕の目は

この小さな花でいっぱいになった


グレートマザーの歌

揺れる花に 涙する
宇宙の 隅っこが
いつの間にか 星の
星のない夜に またたく

街の夜と 草原の朝が
宇宙を 切り裂く
小さな家族の ことば
星の数ほどの あいさつ

おーい 僕は母さんの名前を知る
おーい 大きな匂いの塊が 鼻の先を抜ける
おーい 空の風が逆にふく
風 風 風

浅い眠りの 木かげに
夢を見ていたの 母さん

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